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更新日:2023年8月29日

大腿骨近位部骨折

大腿骨近位部骨折とは

大腿骨近位部骨折とは右図のとおり、大腿骨の近位部(脚の付け根、股関節の一部分)で起こった骨折を指します。多くは骨の脆弱な高齢者が転倒することによって発生します。骨折の部位によって、主に大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折に分類されます。

大腿骨頸部、転子部、転子部骨折の部位

治療方法

大腿骨近位部骨折の標準的な治療方法は、下図のような材料(以下、インプラント)を用いる手術療法となります。インプラントの種類は骨折の部位や程度によって選択されます。当院の整形外科では2022年4月から2023年3月までの1年間で、319例の大腿骨近位部骨折症例が入院され、下図の手術を288例(90.3%)に実施し、31例(9.7%)で手術を実施できませんでした。

2022年度治療別割合。観血的整復固定術41.7%、人口骨頭挿入術40.8%、保存療法9.7%、プレートスクリュー7.8%

大腿骨頸部骨折に対する骨接合術、大腿骨頸部骨折に対する人工骨頭置換術、大腿骨転子部骨折に対する骨接合術のレントゲン写真

入院患者数

大腿骨近位部骨折で入院する患者さんは、近年増加傾向です。2022年度の入院患者数は319人でした。

大腿骨近位部骨折の患者数の推移のグラフ02

年齢構成

大腿骨近位部骨折で入院する患者さんは高齢の方が多く、80歳代が42.9%を占めます。また、90歳以上の患者さんも23.5%であり、80歳以上の患者さんが全体の66.4%を占めます。高齢者の受傷が多いため、受傷後に合併症が発生したり、身体機能が低下して日常生活に支障を来たす患者さんが多いのが特徴です。

平均在院日数

当院に入院した全患者の平均在院日数 12.0日
大腿骨近位部骨折で入院した患者の平均在院日数 22.1日
大腿骨近位部骨折で手術を施行した患者の術後平均在院日数 22.6日

平均在院日数の推移

全体の患者さんの平均在院日数は12.0日ですが、大腿骨近位部骨折で入院した患者さんの平均在院日数は22.1日とかなり長いのが特徴です。これは、多くの患者さんで日常生活の動作に支障をきたすため、短期間で直接自宅に退院できずリハビリの継続を目的とした転院を要することが主な理由です。

年代別の退院先転帰

60歳未満の患者さんでは自宅退院が多く、60歳以降ではリハビリ病院へ転院する患者さんが多くなり、80歳以降では施設へ退院する割合が多くなります。また、わずかではありますが入院中に肺炎をはじめとした合併症及び偶発症の発生により不幸にして亡くなられる患者さんもいます。

手術関連合併症

手術を実施する前後で次のような合併症が発生することがあります。

  • 骨折自体による出血、手術に伴う出血及びそれに起因する貧血
  • 深部静脈血栓症、肺塞栓症
  • 骨折により脚を動かす機会が減少することによって、脚の静脈に血栓ができることがあります。また、その血栓が血流に乗って肺の血管に詰まると肺塞栓症を起こします。この肺塞栓症は命にかかわることがあります。

  • 手術部位感染症
  • 内固定の破綻、カットアウト(骨接合術の場合)
  • インプラントの強さに骨が負けてしまい、固定が緩みインプラントが骨から出てしまうことがあります。

  • 偽関節
  • 骨折部が癒合しないことがあります。

  • 大腿骨頭壊死
  • 骨折により大腿骨頭に十分な血液が供給されなくなることにより、大腿骨頭壊死が起こることがあります(人工骨頭挿入術を施行した場合は該当しません)。

  • 創の違和感、肥厚性瘢痕、インプラントによる刺激症状
  • 術後股関節脱臼(人工骨頭置換術後)
  • 神経や血管の損傷、術中骨折など

治療成績

  • 全体の60.8%がリハビリ病院等へ転院、18.8%が施設へ退院、19.4%が自宅へ退院、0.9%が死亡退院となりました。死亡の原因としては肺炎が最も多く、そのほかに心不全、肺塞栓症、脳出血等がありました。
  • およそ7割の患者さんで日常生活動作及び移動の能力が低下しました。
  • 一部の患者さんで入院期間中に嚥下(飲み込み)機能が低下し、専門的な嚥下リハビリを要しました。
  • 約15%の患者さんに誤嚥性肺炎や尿路感染症等で抗生剤治療を要し、約10%の患者さんに胸水や浮腫、体液量の調整のために利尿剤治療を要しました。また、約5%の患者さんに抗生剤と利尿剤治療の両者を要しました。

リハビリテーション

当院では、手術前からベッド上でのリハビリテーション(以下、リハビリ)を開始します。これによって骨折部以外の機能を維持したり、肺炎などの合併症予防ができます。手術後は状態が許せば手術翌日からリハビリを再開します。手術後まもない時期(手術翌日や翌々日)は、立ち上がったり、車いすに乗ったりする練習から行い、痛みや体調に合わせて歩行練習へと進めていきます。

保存療法(手術を行わない場合)

患者さんの状態によって手術を実施することができない場合があります。この場合、骨が癒合するまで、長期間(2か月程度)骨折をした側の脚に体重をかけず生活をする必要があります。また、骨折型によっては骨癒合をあきらめなければならない事もあります。その結果、骨が癒合しなかったり(偽関節)、癒合しても骨に転位が残ったり(変形治癒)して、痛みや関節可動域制限、筋力低下を残す結果となります。高齢になると一旦失われた筋力、能力は容易に戻らないため、例えリハビリを行っても歩行能力の再獲得は難しい事が多いです。

栄養補助食品について

当院ではリハビリ効果や栄養状態改善を考慮し栄養補助食品を使用しています。栄養補助食品にはたんぱく質やミネラルが含まれ筋力維持などに役立つ場合もあり、主治医の判断と患者さんの同意の上、使用します(既存症のため使用対象とならない方もいます)。栄養補助食品は保険対象ではなく、入院費の請求に使用分の料金が含まれます。ご理解いただきますようお願いいたします。

身体抑制について

治療上の安全のため、必要に応じて身体抑制を行うことがあります。

当院における大腿骨近位部骨折の合併症と死亡率

術後合併症(ガイドライン等との比較)

  肺炎 心不全 血栓症 手術部位感染
ガイドライン ※1 3.2~9.0% 5.0~6.7% 1.1~1.9% 0~1.7%
当院(2017年度) 2.2% 5.0% 0.0% 0.3%

※1 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改訂 第3版(日本整形外科学会、日本骨折治療学会 2021年)

大腿骨近位部骨折(DPC6桁 16080)全体の死亡率

年度 在院死亡率
2018 1.1%
2019 1.0%
2020 1.2%
2021 1.7%
2022 0.9%
平均 1.2%

死亡原因(2018~2022年度)

原因疾患 患者数 在院中の死亡数に対する割合
肺炎 6 33.3%
心不全 4 22.2%
脳出血 1 5.6%
その他 7 38.9%

死亡原因の多数を肺炎が占める。ガイドラインにおいても、死亡原因となる合併症として肺炎が30~44%にのぼるとされている。

死亡率(ガイドラインとの比較)

  30日 1年
ガイドライン ※1 2.9~10.8% 2.6~33%
当院(2018~2022年度)

1.2%

(在院中)

 

※1 大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改訂 第3版(日本整形外科学会、日本骨折治療学会 2021年)

早期手術の利点

ガイドラインではできる限り早期の手術を推奨しています

(内科的合併症で手術が遅れる場合を除いて)
早期手術は合併症発生率や生存率について有効であるという中等度レベルのエビデンスがある。

※海外では一般的に早期手術を受傷後48-72時間以内とする

  • 早期手術は死亡率を低下させ、運動能力を維持しやすく、かつ肺炎や褥瘡などの合併症発生率を低下する。
  • 受傷から手術までの待機期間が48時間以上の場合に深部静脈血栓症の発生率が高くなる。

国の施策でも早期手術が推奨され、2022年度から緊急整復固定加算・緊急挿入加算が新設されました。

  • 当院の大腿骨近位部骨折における合併症発生率や死亡率はガイドラインや先行研究と比較しても良好な成績となっています。
  • 受傷後早期の手術は生命予後、合併症発生率の観点から重要です。
  • 当院は受傷後48時間以内の早期手術実施を目指しており、緊急整復固定加算・緊急挿入加算算定施設に登録されています。
  • 一方、高齢で併存症のある患者さんでは、術前の耐術能の評価は重要です。

ご質問等がありましたら、スタッフや担当医へお尋ねください。

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