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更新日:2018年12月18日

消化管がんの内視鏡診断

消化器内科 平田慶和

はじめに

近年、本邦では内視鏡診断技術の発展に伴って、早期に発見される消化管がんが増加してきています。当初は発見された早期がんに対して外科切除治療が行われていましたが、治療例が蓄積されるに従い、早期がんの中でも粘膜内がん(図1A)ではリンパ節転移がまれなことが判明しました。この結果を踏まえ、内視鏡的な腫瘍切除術が開発され、消化器がんも早期であれば臓器を失うことなく治癒が可能となりました。その一方で、早期がんでも粘膜下層浸潤の消化管がん(図1B)では10~30%にリンパ節転移を認めると報告されており、リンパ節郭清を含んだ外科的手術治療が推奨されています。よって消化管がんの治療方針決定のためには正確な深達度診断は最も重要であります。

近年消化管内視鏡の領域においては拡大内視鏡や画像強調観察法が開発され、消化管がんの深達度診断や範囲診断に有用であることが報告されてきました。そこで本稿では、これら拡大内視鏡、画像強調観察法について述べたいと思います。

図1:がんの深達度分類

拡大内視鏡とは

拡大内視鏡は、内視鏡手元のコントローラーで約100倍の拡大画像を得られるようになっています(図2)。

図2:拡大内視鏡

食道においては1996年井上らが報告した食道粘膜の上皮下乳頭内のループ状の毛細血管(intrapapillary capillary loop:IPCL)が重要です(図3A、3B)。がん化した部分のIPCLは、正常と異なるため、腫瘍表面の拡大観察が食道がんの深達度診断に有用であることが報告されています(図3C)。

図3:食道のIPCL。A:食道の表在血管網の内視鏡所見シェーマ。食道の表在血管網は、粘膜下層の太い静脈と粘膜筋板の直上に接して存在する樹枝状血管網、そして樹枝状血管網から垂直に立ち上がってくる上皮乳頭内出血(IPCL)からなる。通常の内視鏡で観察される血管は樹枝状血管までである。この血管を内視鏡で150倍の拡大観察をすると、ループ状の血管として観察される。それはNBIでは褐色のループとして観察される。このIPCLは上皮内がんでは特徴的な変化を示す。このIPCLの変化により、扁平上皮の性状やがんの深達度をある程度、推察することができる。これがIPCLパターン分類である。

また大腸では拡大内視鏡像による腺口形態(pit pattern)分類による診断法が有用とされています(図4)。2004年の箱根pit patternシンポジウムなどを経て、pit pattern分類の統一が図られました。これらの診断基準をもとに拡大内視鏡観察により79~98.8%の深達度正診率が得られると報告されています。

図4:大腸ピットパターン分類。腺口形態を見ることで、正常か、ポリープ(腺腫)から粘膜内がんか、粘膜内がんから粘膜下層浸潤がんか、粘膜下層浸潤がんかが分かる。

画像強調観察法とは

新しい画像強調観察法NBI(narrow band imaging)は粘膜表層のこまかい性状を観察するために開発されました(図5)。ヘモグロビンは可視光内で415nmと540nmの光を強く吸収する特性を活かし、その近辺に照明光を狭帯化すれば、表層の毛細血管と粘膜下層の血管を明確に描出できることから、拡大内視鏡にNBIを組み合わせることで、粘膜表層の微細血管像のより正確な観察が可能となっています(図6)。食道がんにおいては拡大NBI観察によるIPCLを用いた日本食道学会分類が定義されました。また大腸においても2014年現在、いくつか存在しているNBI拡大による早期大腸がんの深達度分類が一本化して定義される方向となっています。

図5:NBIの仕組み(オリンパス社ホームページより)。NBIは血液中のヘモグロビンに吸収されやすい狭帯域化された2つの波長の光を照射することにより、粘膜表層の毛細血管、粘膜微細模様の強調表示を実現します。血管を高いコントラストで観察するために、(1)血液に強く吸収される、(2)粘膜表層で強く反射、散乱される、という特長を併せ持つ光の利用に着目し、粘膜表層の毛細血管観察用に青色の狭帯域光(390~445nm)、そして深部の太い血管観察と粘膜表層の毛細血管とのコントラストを強調するために緑色の狭帯域光(530~550nm)を使っています。これにより、食道領域の詳細診断や大腸のピットパターン(腺管構造)観察のために広く行われている色素散布の代替法として期待されます。また、検査時間や不必要な生検の減少によって、検査の効率化への貢献が期待されています。

図6:食道IPCLのNBI拡大像。様々なIPCLのパターン。A がんとしてのIPCLは延長しておらず、内視鏡治療可能病変。B ICPLが延長し、癒合しかけている。内視鏡治療相対適応病変。C 新生血管が出現。無血管野もあり手術が必要な病変

このように、各臓器においてNBI拡大の分類が学会主導で統一化されているということはすなわち、この診断方法が正式にコンセンサスを得るものとなったという証拠であります。

また、以前はこのNBI画像は光量の問題があり、病変に近接しないと正確な画像が得られない(つまり、あらかじめ指摘されている病変に対する精密検査としての位置づけ)というデメリットがありました。しかし、近年の内視鏡機器技術の進歩により、病変の通常のスクリーニング検査による拾い上げにもこのNBI画像が使用できるようになりました。
つまり、がんの早期発見から精密検査までのすべてにおいてこの画像強調や拡大内視鏡の技術が重要な役割を担ってきているといえます。

これらの実際は食道、胃、大腸というすべての消化管領域においてすでにいろいろな雑誌に論文報告がなされております。

当院における実際

当院においても、最先端の内視鏡機器を導入し、日々早期がんの発見、精密検査に努めております。上部消化管内視鏡検査では通常の検査時にも、特にNBI観察の有効性が報告されている食道では必ず通常観察とともにNBI観察も施行しております。また上部、下部消化管のいずれの検査におきましても病変の発見時にはNBI観察を付加することにしております。

さらに、初回の検査でがんが確定し、治療方針決定のために正確な深達度診断や範囲診断が必要と考えられる症例に関しましては、後日精密検査として拡大内視鏡を用いた画像強調観察(NBI)を行い、その画像を複数の医師で検討することで、最終的ながんの深達度診断や治療方針の決定を行っております。

またこれらの機器を使用した内視鏡診断に関しては、名古屋市立大学消化管グループ主導の臨床試験にも参加しており、共同研究の結果は以下の論文として学会誌にも報告しております

【大腸がんのPit patternに関する論文】

Magnifying Chromoendoscopy and Endoscopic Ultrasonography
Measure Invasion Depth of Early Stage Colorectal Cancer With Equal
Accuracy on the Basis of a Prospective Trial
Takaya Shimura, Masahide Ebi, Tomonori Yamada, Yoshikazu Hirata,
Hirotaka Nishiwaki, Takashi Mizushima, Koki Asukai, Shozo Togawa,
Satoru Takahashi, and Takashi Joh
Clinical Gastroenterology and Hepatology 2014;12:662–668

【食道がんのIPCLに関する論文】

Multicenter, prospective trial of white light imaging alone versus white light imaging followed by magnifying endoscopy with narrow band imaging for the real-time imaging and diagnosis of invasion depth in superficial esophageal squamous cell carcinoma
Masahide Ebi, Takaya Shimura, Tomonori Yamada, Takashi Mizushima, Keisuke Itoh, Hironobu Tsukamoto, Kenji Tsuchida, Yoshikazu Hirata, Kenji Murakami, Hiroshi Kanie, Satoshi Nomura, Hiroyasu Iwasaki, Mika Kitagawa, Satoru Takahashi, Takashi Joh,
Gastrointestinal Endoscopy in press

(文責:消化器内科 平田慶和)

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