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更新日:2022年6月22日

急性胆嚢炎に対する早期腹腔鏡下治療

~早期手術で大幅な病悩期間の短縮が可能に~

現在まで急性胆嚢炎の治療のタイミングについてさまざまに議論されてきました。近年、急性胆嚢炎に対する早期手術が安全、かつ、在院日数の短縮につながるというエビデンスが示され1)、本邦の“急性胆管炎・胆嚢炎の診療ガイドライン”においても急性胆嚢炎に対し、発症から3日以内の早期手術を推奨しています。当院では2009年8月までは急性期を保存的治療で乗り切り、急性炎症が消退してから手術(腹腔鏡下胆嚢摘出術)する従来の方法で急性胆嚢炎に対する治療を行ってきました。しかし、従来のような炎症の消退を待ってからの手術では、発症から手術までの期間が長く、病悩期間(発症から手術を行い、退院するまでの期間)が長期となり、結果的に医療コストも高くなります。患者さんの社会生活の中断期間も長くなります。また手術においても、胆嚢周囲の繊維化が著しく胆嚢の剥離困難が生じ、腹腔鏡での対応が困難となり開腹手術に移行する可能性が高まります。当院での2009年9月までの急性胆嚢炎症例を検討すると、発症から手術まで平均45日、発症から術後退院までの日数(途中一旦退院、外科へ再入院も含む)が51日、入院コストは1症例あたり100,798点(消化器内科入院58,655点+外科で手術入院42,143点)でした。また腹腔鏡から開腹への移行率は23.2%でした。

そこで当院では2009年9月より急性胆嚢炎に対する発症3日以内の早期での腹腔鏡下手術を施行するようにしました。ただし来院時に3日以上たっていても発症10日まではできるだけ速やかに手術を行うことにしています。早期手術の除外基準として1)重篤な併存疾患の存在(例:心血管系疾患で抗凝固療法中の症例)、2)総胆管結石症例(消化器内科で内視鏡的な切石を行ってから手術になります)、3)発症から11日以上経過した症例などを設けています。

2010年11月までの当院での急性胆嚢炎の早期手術例は32例でした。急性期に手術を行うので胆嚢周囲は浮腫状で待機的手術より胆嚢周囲の剥離は容易です。また出血に関しても適切な剥離層を保てば少量の出血で済み、待機手術よりは手術が容易な印象です。今回、早期手術32例と従来の待機手術56例を比較してみました。開腹率は12.5%に減少したものの症例数が少ないため統計学的には有意とはいえませんでした。その他の手術成績について評価しましたが、手術時間、合併症率、術後在院日数は早期群と待機群で統計学的に有意差を認めず、全体の手術成績に差を認めませんでした。しかし、発症から手術退院までの日数(待機群の場合、手術を待つ間の自宅待機も含みます)が早期群では平均7日、待機群では平均51日と明らかに差を認めました(table 1)。またコストを比較しても早期群は待機群の約2分の1で早期群のほうが優れていました(table2)。早期手術により病悩期間の大幅な短縮と、医療コストの削減が実現しました。何よりも患者さんへのメリットが大きいという結果でした。

早期手術と待機手術の手術成績の比較の表画像

総在院日数とコストの比較の表画像

今後も急性胆嚢炎に対しては積極的に早期手術を行い、患者さんの早期の社会復帰を目指したいと考えています。そのため、侵襲の少ない腹腔鏡での手術成績の向上を志したいと考えております。

1)Gurusamy K, Samraj K, Gluud C et al. Meta-analysis of
randomized controlled trials on the safety and effectiveness of early versus
delayed laparoscopic cholecystectomy for acute cholecystitis. Br J surg
2010;97: 141-150

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