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更新日:2026年8月5日

免疫の異常で起こる病気(神経免疫疾患) 

本来は体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の神経や筋肉を攻撃してしまう病気です。

脳や脊髄のあちこちに炎症が起こり、視力低下や麻痺を繰り返す多発性硬化症、神経から筋肉への命令が伝わりにくくなり、夕方になると目が開けにくくなったり、疲れやすくなったりする重症筋無力症、風邪などの後に、急に手足に力が入らなくなるギラン・バレー症候群などがあります。 

多発性硬化症

多発性硬化症は、脳や脊髄、視神経といった中枢神経系のあちこちに、局所的な炎症の病巣が「多発」し、神経を保護しているカバー(髄鞘:ずいしょう)が破壊される脱髄(だつずい)性疾患です。

厚生労働省の指定難病に指定されており、日本では10万人あたり数人から十数人程度、20代〜40代の若年・中年層、特に女性に多く発症する特徴があります。

発症のメカニズム

本来は外敵から体を守るべき免疫細胞(T細胞やマクロファージなど)が、誤って自分の脳や脊髄の髄鞘を攻撃してしまうことで起こります。電気に例えると、電線を覆うビニールカバー(髄鞘)が破れると、中の銅線がむき出しになり、電気信号(神経伝達)がスムーズに伝わらなくなったり、途切れたりしてしまいます。

主な症状

どこに病巣(脱髄)ができるかによって症状は千差万別ですが、「時間的多発(良くなったり悪くなったりを繰り返す)」と「空間的多発(あちこちに症状が出る)」が大きな特徴です。

  • 視覚障害:片方の目が急に見えにくくなる(視力低下)、視野が欠ける、物が二重に見える(複視)
  • 運動・感覚障害:手足のしびれ、力が入りにくい(脱力)、歩行時のふらつき、ボタンが留められないなどの細かい作業の難しさ
  • 自律神経障害:尿が出にくい、頻尿、便秘
  • その他:強い疲労感、うつ症状、認知機能の低下など

また、体温が上がると一時的に症状が悪化または再出現する「ウートフ現象」(入浴や運動時などに顕著)もよく知られています。

臨床経過のパターン

病気の経過に応じて“再発寛解型、二次性進行型、一次性進行型に分類され、再発寛解型は症状が現れては治ることを繰り返し、日本ではそのうちの約20%が数十年後に二次性進行型へと移行するといわれています。二次性進行型では、はじめは症状が現れたり、治ったりを繰り返す再発寛解型を示しますが、次第に再発せずに、ゆっくりと体の障害が進行するようになります。一方、一次性進行型ははじめから障害が継続して進行するタイプです。

経過パターン 特徴
再発寛解型 急激な悪化(再発)のあと、症状が自然に、あるいは治療で回復(寛解)する。初期の多くがこのタイプ。
二次性進行型  再発寛解型を繰り返したのち、再発の有無に関わらず、徐々に症状が進行(悪化)するようになる。
一次性進行型 発症初期から再発・寛解の波がなく、緩やかに症状が進行し続ける(日本では比較的まれ)。

診断

神経学的診察に加えて脳・脊髄のMRI検査(病巣の空間的・時間的多発の確認)や、髄液検査(オリゴクローナルバンドの陽性など)が不可欠です。近年は、類似疾患である「視神経脊髄炎(NMO)」との鑑別(抗AQP4抗体検査など)が極めて重要視されています。

治療

急性期治療(再発時の消炎)

ステロイドパルス療法(高用量メチルプレドニゾロンの点滴)が第一選択となります。効果不十分な場合は血液浄化療法なども検討されます。

再発予防・進行抑制(疾病修飾薬: DMD)

近年、インターフェロン製剤に加え、フィンゴリモド、ナタリズマブ、オクレリズマブなど、免疫システムにピンポイントで作用する分子標的薬や経口薬が次々と登場し、長期的な再発抑制や障害進行の遅延において治療選択肢が劇的に広がっています。

対症療法・リハビリテーション

突っ張り(痙縮)に対する筋弛緩薬の投与や、ウートフ現象に配慮した適切なリハビリテーションを行い、QOL(生活の質)の維持を図ります。 

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重症筋無力症

重症筋無力症(Myasthenia Gravis: MG)は、神経から筋肉へ運動の指令がうまく伝わらなくなる原因不明の自己免疫疾患(指定難病11)です。

本来なら外敵から体を守るはずの免疫システムが誤って自身の体を攻撃する「自己抗体」を作ってしまい、神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)を破壊してしまうことで発症します。

発症のメカニズム

正常な状態では、運動神経の末端からアセチルコリン(ACh)という神経伝達物質が放出され、筋肉側にあるアセチルコリン受容体(AChR)に結合することで筋肉が収縮します。

しかし、重症筋無力症ではこの受容体などに対する自己抗体(抗AChR抗体や抗MuSK抗体など)が生成され、受容体をブロックしたり破壊したりします。その結果、信号が筋肉に十分に伝わらなくなります。

主な症状

この病気の最大の特徴は、「日内変動」と「易疲労性(いひろうせい)」です。朝は調子が良くても、夕方や体を動かした後に症状が強く現れます。

1.眼症状(眼筋型):多くの患者さんで最初に現れる症状です。

  • まぶたが下がってくる(眼瞼下垂)
  • 物が二重に見える(複視)

2.全身症状(全身型):目の症状にとどまらず、全身の筋肉に及びます。

  • 腕が上がらない、歩くとすぐに疲れる(四肢の筋力低下)
  • 噛めない、飲み込みにくい、話しにくい(球麻痺症状)

3.クリーゼ(呼吸困難):呼吸筋に症状が及ぶと、命に関わる重篤な状態(筋無力症クリーゼ)になるため、迅速な人工呼吸管理などが必要です。

診断

  • 血液検査:抗AChR抗体や抗MuSK抗体などの自己抗体を測定します。
  • 反復刺激試験(肌電図検査):神経を連続して電気刺激した際の、筋肉の反応の減衰(しだいに小さくなる現象)を確認します。
  • エドロフォニウム試験(テンシロン試験):アセチルコリンの分解を抑える薬を注射し、一時的に症状が改善するかを見ます。
  • 胸部CT:背景に胸腺腫(thymoma)や胸腺肥大が隠れているケースが多いため、必ず確認します。

治療

近年、分子標的薬(補体阻害薬やFcRn阻害薬)の登場により、治療の選択肢が飛躍的に広がっています。

  • 対症療法:コリンエステラーゼ阻害薬(メスチノンなど)で神経からの信号伝達を一時的に強めます。
  • 免疫療法:原因となる抗体の産生を抑えるため、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を使用します。
  • 胸腺摘除術:胸腺腫がある場合や、抗AChR抗体陽性の全身型において、胸腺の摘出が行われます。
  • 急性期・増悪期の治療:血液浄化療法(血漿交換)や免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)で、血液中の自己抗体を急速に除去・中和します。

注意点(禁忌薬について)

一部の抗菌薬(アミノグリコシド系など)や抗不整脈薬、麻酔薬など、神経筋接合部の伝達をブロックしてしまうため「禁忌(使用してはいけない)」または「慎重投与」とされている薬剤が多数存在します。他科を受診する際や処方を受ける際は、必ず本病の罹患を申告する必要があります。 

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ギラン・バレー症候群

ギラン・バレー症候群は、筋肉を動かす「運動神経」が障害され、体に力が入らなくなる急性の神経疾患です。

多くの場合、風邪や下痢などの感染症にかかってから数日〜数週間後に発症します。本来は体を守るはずの免疫システムが異常を起こし、誤って自分の末梢神経(特に神経の信号を伝える「髄鞘(ずいしょう)」や「軸索(じくさく)」)を攻撃してしまうことが原因(自己免疫反応)と考えられています。

主な症状

症状は「手足の先」から始まり、徐々に体の中央(体幹)に向かって上ってくるように広がることが特徴です。

  • 運動麻痺:手足に力が入らなくなる(箸が持ちにくい、階段が登れない、つまずきやすいなど)。
  • 感覚異常:手足の先がピリピリ・ジンジンとしびれる、感覚が鈍くなる。
  • 自律神経症状:血圧の激しい変動、脈の乱れ、尿が出にくくなるなど。
  • 進行のピーク:症状が始まってから約2週間〜4週間以内に悪化のピークを迎えます。

重症化時の注意点

麻痺が顔や喉、胸にまで及ぶと、食べ物をうまく飲み込めなくなったり(球麻痺)、呼吸の筋肉が動かなくなって息苦しくなったりします。この場合は、人工呼吸器による管理など集中治療が必要になります。

診断

急速に進行するため、早期の診断と治療開始が極めて重要です。

  • 髄液検査:背中から脳脊髄液を採取します。ギラン・バレー症候群では、細胞数は増えないのに「蛋白(たんぱく)」だけが増える(蛋白細胞解離)という特徴的な変化が見られます。
  • 神経伝達速度検査:神経に電気刺激を与え、信号が伝わる速さを測定して障害の程度を調べます。

治療(免疫療法)

  • 免疫グロブリン大量静注療法(IVIg):健康な人の血液から精製した抗体(グロブリン)を大量に点滴し、異常な免疫反応を抑えます。現在の主流です。
  • 血液浄化療法(血漿交換療法):血液中の有害な抗体や免疫物質を取り除くため、血液を体外に循環させてきれいにします。

経過と予後

多くの患者さんは、発症から数ヶ月〜1年程度かけて自然に、あるいは治療によって徐々に回復に向かいます。最終的に約8割の人が自立生活ができるまで回復しますが、一部で筋力低下やしびれなどの後遺症が残ることがあり、早期からのリハビリテーションが回復を促すために重要です。

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