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更新日:2018年12月8日

膵がん発症のリスクファクター-糖尿病を中心に-

消化器内科 高田 博樹

我が国における膵がんの罹患数は2005年の財団法人がん研究振興財団の統計で24,799人であり悪性腫瘍中の第8位となっている。また、2009年の同統計によれば膵がんの死亡数は26,791人と第5位である(表1)。つまり統計年次は違うものの、死亡数が罹患数を上回っているという状況から平均予後が1年以下であることが推察される。大変予後不良な疾患である。事実、日本膵臓学会の集計によれば膵がん全体の5年生存率は5~10%と極めて悪い。

一方、膵がんによる死亡数の推移であるが、他の多くのがん腫と同様に全国的統計が開始されて以後、増加の一途にある(図1)。
こうしたことから膵がんの治療法確立及び進歩は、がん医療の中でも急務かつ重要な課題である。

しかし、治療成績向上の条件は治療法の進歩だけではない。どんな疾患でも当てはまることであるが、早期発見・早期治療がまずは基本である。近年の“けんしん”統計(ここで言う“けんしん”とは検診・健診・人間ドック)によれば消化器超音波がん検診で見つかる膵がんは年間約30~70人(発見率0.004~0.007%)、人間ドックで見つかる膵がんは年間約60~85人(発見率は0.002~0.004%)である。このように“けんしん”における膵がん発見率は受診者10万人対でおよそ1~20人/年であり、生命予後に重大な影響を及ぼす疾患にもかかわらず発見率が低いためその効率は必ずしも良好とはいえない。これだけ健康への意識向上が高まり“けんしん”の取り組みがなされている現在においても、こと膵がんに関しては満足すべき結果には程遠いのである。

ではいかにして膵がん患者を効率よく見つけ出すか?その答えには膵がん発症に関わるリスクファクター(危険因子)の理解がカギになる。現在までの報告をまとめるとリスクファクターには表2のようなものがある。早期発見には無症状のこれら危険因子群を検診することが望ましいが、これら危険因子を一つでも有する対象数は膨大であり、また先で述べた検診での検出率が極めて低いというエビデンスからは費用対効果に問題があると思われる。特にここではリスクファクターの中でも病院受診のきっかけとなりやすい糖尿病に絞り、糖尿病と膵がんの関連性について記してみたい。

膵臓と糖尿病2007年度膵がん全国登録調査報告によれば、膵がん患者のうち糖尿病既往歴を有するものは25.9%にも及んでいたとの結果が出ている。また国内外の諸家の報告でも、幅はあるものの糖尿病合併率は16.4~52.2%と高値を示している。従来から糖尿病と膵がんの関連性は指摘されてきたが、これら報告からその関連性において既に疑う余地は無いと思われる。しかしここで一つの注意すべき点がある。それは膵がんが糖代謝異常をきたし糖尿病を発症する場合と、糖尿病が膵がん発生・進行の要因となっている場合に分けられることである。それぞれの機序について挙げると(図2)前者は、膵がんによる膵管閉塞・随伴性膵炎が膵B細胞機能障害を来たす説、膵線維化の増強に伴いB細胞が減少し耐糖能異常をきたす説、膵がん由来の因子(islet amyloid polypeptide)が末梢での糖利用障害を起こすとの説、あるいはグリコーゲン合成が減り分解が活性化される結果高血糖に至るとの説がある。一方後者の機序として、高血糖が膵B細胞を刺激し過剰分泌されたインスリンが細胞増殖を促進してがん化に至るとの説や、インスリンやインスリン分泌を促す薬物を使用すると膵がんリスクが上昇するとの報告があり、インスリン曝露が膵がんを誘発する可能性が示唆されている。後者のようにリスクファクターとしての糖尿病が存在し、膵がんの発症に至る関連性について完全に結論が出たわけではないが、多くの疫学的手法により糖尿病が膵がんの危険因子である可能性が示されてきた。Silvermannらは、10年以上の糖尿病歴を有するものは膵がんの相対危険度が50%増加し罹病期間と膵がんの相対危険度(RR)は相関する、としている。他の諸検討でもRRが2.1~2.89、特にインスリン治療を必要とした症例はRR6.49と、それぞれかなりの高値が示されている。わが国でも糖尿病歴を有する男性の膵がん相対危険度が高値であったとする報告もある。また興味ある点として糖尿病と膵がん占拠部位に関連性が見受けられるということである。日本膵臓学会膵がん登録20年間の総括(2003)によれば、がん占拠部位を膵頭部と体尾部に分けた場合、絶対数では膵頭部の方が2.6倍多かった。しかし占拠部位別での比率で検討してみると体尾部の方が1.4倍多いとの結果であった。一般的にランゲルハンス島B細胞は体尾部に多いとされていることと、先の図で示した糖尿病から膵がんに至るメカニズムを考え併せれば、糖尿病は膵体尾部がんのリスクファクターである可能性も考えられる。膵体尾部がんは解剖学的位置からエコー検査で描出しにくく、また閉塞性黄疸を発症しにくいことより臨床的にも早期発見が一段と難しい。膵体尾部がんを早期に発見するためには糖尿病の存在がその重要なきっかけになりうる可能性があるのである。次に糖尿病罹病期間と膵がんの関連性についてである。膵がんにおける糖尿病は随伴性の二次性糖尿病である可能性も多分にあるが、糖尿病が既に2~5年以上先行した場合は随伴性の二次性糖尿病は否定的と考えて良いと思われる。そして2年以上の罹病期間をもつ糖尿病では膵がんが比較的高率に認められるという報告や、長期経過観察中の糖尿病に発症した膵がん症例の報告が多数ある。さらに糖尿病合併膵がんの発症時病期についてであるが、高度進行例が多く予後不良であるとの報告が多い。ただし、このことについては糖尿病の膵がんリスクファクターとしての要素は単一的なものではなく、病態、罹病期間、その他解明されていない因子での複合的関与が背景として臨床像が作り上げられるものであるとされている。

いずれにしろ糖尿病を合併していた時点で既に進行がんである可能性が高いとしても、より早期に発見することがその後の治療結果に大きく関わってくることは言うまでもない。最後に、福岡赤十字病院では膵がん早期発見の試みとして表3のごとく基準を設けてERCPを行った結果7%に膵がんを発見したと報告している。条件を設定した上での精査結果ではあるが、先に記した“けんしん”での膵がん発見率と比較するとその高さは驚くべきものである。もちろん全ての医療施設で全ての症例にERCPを実施するなど非現実的であるため、現時点の一般日常臨床においては、先の表に示したような糖尿病を含めた複数の危険因子を有する症例で膵がん発症も念頭においた慎重な経過観察と採血・エコーなどの定期的検査を行うことが望ましいと思われる

今後、より効率的に早期膵がんを発見するために、危険群を絞り込むための検討と検査体制を確立させる更なる取り組みを進めることが重要であると考えられる。

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