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更新日:2018年12月8日

乳がん治療

 外科 古田美保

乳がんは、わが国の女性のがん罹患率第1位で、女性の20人に1人が罹患するといわれ、罹患率、死亡率ともに増加傾向です。この罹患率の増加は、食生活の欧米化や肥満との関連が示唆され、実際にアメリカでは8人に1人が罹患し社会問題となっていますが、ピンクリボンなどの啓蒙活動、検診率の向上により、死亡率は減少傾向に転じてきています。
乳がんに対する治療や、その考え方もずいぶん変化しました。乳がんが発見された時点ではすでに全身に微小転移があると考え、乳がんを“全身疾患”として治療を考えるようになりました。手術に依存してきたこれまでの治療は、局所制御と予後の指標でしかなく、予後改善のためには、早期からの全身治療が“重要な鍵”と考えるようになったのです。すなわち患者の生命にかかわる転移を抑えるためには、胸筋の合併切除や、郭清範囲を広げるような手術の拡大ではなく、ホルモン療法や化学療法、分子標的薬剤など全身治療を加えることが重要である、ということです。この、手術と組み合わせる補助療法としての全身治療は、腫瘍の性質や進行度から再発リスクを考慮した、世界的、あるいは日本の治療指針(乳がん診療ガイドライン(日本乳がん学会)、ザンクトガレン・コンセンサス、NCCN乳がん治療ガイドラインなど)を参考に決定しています。
今回は、乳がん手術の変遷と、昨年4月より保険収載されたセンチネルリンパ節生検についてご紹介します。乳がんの手術で定型的乳房切除術として100年近く長い間標準治療とされてきたのは、1890年代にハルステッドが提唱した乳房、胸筋、腋窩リンパ節を全て切除するというものでした。この術式は“がんはまずリンパ節へ転移し、その後全身へ広がる。所属リンパ節はがんの転移を止めるバリアであり、最大限の局所制御が治療成績に反映する”という「ハルステッドの理論」に基づくもので、画期的に局所再発率が減少したといわれています。しかし、1970年代に入りハルステッド手術への評価が一変します。“乳がんは基底膜を破り浸潤するや否やリンパ節と全身へ転移を起こす”という「フィッシャーの理論(乳がん全身病説)」が提唱され、大規模無作為化比較試験が行われました。NSABP B-04では臨床的リンパ節転移陰性(N0)のグループに対し、腋窩リンパ節郭清の予後への影響を検証し、非郭清群は高率にリンパ節への再発を認めましたが、生存率に影響しない、つまり腋窩郭清は生存率の改善に寄与しないという結果でした。リンパ節転移は、既に全身のどこかにがんが潜んでいることの指標であるという、「乳がん全身病説」が証明されたのです。領域リンパ節郭清を確実に行うために合併切除されていた胸筋が温存されるようになり(非定型的乳房切除術)、更に1980年代に入ると、早期乳がんに対しては、乳房を切除しても温存しても、生存率に差がないという結果が相次いで発表され、これが乳房温存手術の普及のきっかけとなりました。その後20年経過したNSABP B-06、ミラノトライアルの長期追跡結果からも生存率に有意差がないことが確認されました。
日本での乳がん手術は1990年頃より、胸筋を残す非定型的乳房切除術が主流となり、2000年以降には乳房温存手術が普及し、現在では乳房切除術の割合を上回っています(図1)。海外に比べ大幅に遅れてスタートしたわが国でも乳房温存手術は良好な生存率を呈し、10年乳房内再発率については放射線療法併用で8.5%と許容できるものと考えられています。温存手術の場合は原則的に、温存乳房への再発を抑える目的で放射線治療(当院では通常、計50Gy、25日間外来通院で照射)を行います。さらに最近では温存乳房の整容性の追求や、また全摘後の乳房再建など患者のQOLまで考慮した治療も検討されるようになってきています。
このように胸筋を温存、乳房も温存と切除範囲は縮小傾向でしたが、腋窩リンパ節郭清については生存率の向上に直接寄与しないとされてはいるものの、リンパ節転移の有無の評価と、リンパ節再発を防ぐ局所制御を目的として標準的に行われてきました。しかし、腋窩リンパ節郭清は腋窩リンパ節転移を認めない(N-)症例には無用であるはずで、7割の患者には転移がないとされ、郭清による合併症として患側の上肢がむくむリンパ浮腫や上腕の知覚麻痺を起こし、長期間これらの合併症に悩まされる危険性があります。腋窩リンパ節転移を認める(N+)症例には依然郭清は必要と考えられ、そのリンパ節転移の有無を診断し郭清の適応を決めることが重要です。このような状況の中で“センチネルリンパ節(SLN:sentinel lymph node)”という概念が見直し応用され、生検方法が確立されてきたわけです。

SLNとは腫瘍からのリンパ流が最初に到達するリンパ節と定義され、その領域リンパ節の中で最も転移の可能性の高いリンパ節です。センチネルリンパ節生検(SLNB:sentinel lymph node biopsy)は色素あるいはアイソトープ(RI)などを用いてそのリンパ節を同定、生検します。その転移の有無を病理組織学的に診断することで、理論的には領域リンパ節全体の転移の有無を判定することができるとされ、実際には1990年代に悪性黒色腫で確立されました。乳がんについてもSLNを組織学的に検索した結果(図2)、腋窩リンパ節転移の有無とよく相関し、SLNに転移を認めない場合、腋窩リンパ節郭清を省略できることが示唆されました。乳がん診療ガイドライン2008年版(日本乳がん学会)にも示され、さらに2010年4月に保険収載されたことにより、標準治療として一気に普及してきています。

★当院でのセンチネルリンパ節生検の実際と今後のとりくみ★
乳がん治療における入院はほとんど手術時のみで、化学療法などは通常は外来通院で行っています。手術入院期間も短期化しており、手術前日に入院し、術後4日から8日目に退院、よって6日から10日程度が標準的です。SLNBを行う場合は術前日にRIを乳輪周囲の皮内、皮下に注射し、4時間後リンフォシンチグラムを撮影し、SLNへの集積を確認します(図3)。腫瘍部よりも乳頭、乳輪下に注入した方がSLNの同定率が高く、翌日、手術開始時には、同様に色素(インジゴカルミンまたはインドシアニングリーン)を注射し、術中ガンマプローブ(図4)を腋窩にあて、RIの集積を音とカウントを参考に検出し、着色されたリンパ管をたどりSLNを同定します。通常1から3個のSLNを同定できます。そして術中迅速病理診断で転移の有無を評価します。SLNBの適応、アルゴリズムを図5に提示しました。画像診断など臨床的に転移を認める場合やSLNの同定できない場合、また、たとえSLNBを行ってもSLN転移陽性症例には腋窩リンパ節郭清を行うことが原則です。
当院では、昨年1年間に行った乳がん手術53例のうち、SLNBを29例に行い、25例に郭清を省略できました。長期的検討は必要ですが、症例数は増えていくものと考えられます。
一方、乳がん術後のリンパ浮腫に対する啓蒙や自己管理に対しても、外来・病棟看護師、理学療法士、医師でリンパ浮腫対策チームを結成し、手術前後の指導や、2~3ヶ月に1度の講習会の開催、また実際にリンパ浮腫を発症している方にはセルフドレナージやバンデージ、スリーブの装着の指導、購入の申請(腋窩郭清後は保険適応)などの活動をしています。コメディカルとともにチーム体制をくみ、乳がん治療だけでなく、それに伴う合併症対策を含めたQOLを重視したサポートにも取り組んでいます

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